超高度に『医デジ化』された社会の実現

小泉 憲裕
(電気通信大学 大学院情報理工学研究科 准教授)

2014年5月26日月曜日

ROBOMECH2014における成果発表

ロボティクス・メカトロニクス講演会2014(富山市総合体育館)において下記の成果発表を行いました.総計50名を超える方々を前に研究成果を発表することができ,貴重なコメント,ディスカッションができたことをこの場をお借りして深謝もうしあげます.

小泉憲裕, 板垣雄太郎, 李 東俊, 月原弘之, 東 隆, 野宮 明, 葭仲 潔, 杉田直彦, 本間之夫, 松本洋一郎, 光石 衛, "医療技能の技術化・デジタル化に関する研究-肋骨を避けて超音波撮像するために必要なプローブ操作機構-," 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス'14講演会講演論文集, 3A1-F02, 2014.05.25-28, 富山市総合体育館, 富山.PDF(0.7MB)

<内容>
 胸部や腹部における超音波診断・治療における主要な問題点のひとつとして肋骨の音響シャドウにより,患部の抽出・追従・モニタリングが困難になることがあげられる.
 そこで本報では,肋間(肋骨と肋骨の間)に存在する患部を抽出・追従・モニタリングするために必要なプローブ動作機構について検討したのでこの結果について報告する.
 具体的に,肋間操作に必要とされる『ねじり回転』プローブ動作タスク機能および『スキャン』プローブ動作タスク機能を抽出・動作範囲を解析し,つぎにこれに基づいてプローブ動作機構を実装した.最後に実装したシステムにより上記プローブ動作が実現できることを確認した.

<質疑応答>
(Q)肋間に存在する患部の抽出はマニュアルで行うのか?自動化はどのように考えているか?
(A)ロボットがみずから技能を高めることは困難であり,この点は医師に任せるべきだと考えている.医師の能力を補完したり拡張することが有用であるというのが本研究における医療システム開発のスタンスである.すなわち,患部を抽出するタスクは医師の技能にまかせ,追従タスクにおいてはロボットが行なう.

(Q)早稲田大学で,肋間走査の超音波診断自動化の研究が行われているが、どのような点が異なるか?
(A)よく知っている。我々の所属する光石研究室は代々生産加工の研究室であり,医療支援システムの構築においてもこのDNAを受け継いでおり,医療ロボットを工作機械同様に精密に位置決め制御するための機構・制御に関するコア技術を有している.たとえば,本システムで採用しているリニアガイド,曲率ガイドといった剛性の高い機構はこのような精密位置決めが可能な機構であり,このような機構によって,プローブ手先に患部が接触してもプローブの視点が変わらず,これにより,患部追従のための画像の質も低下しないなどの利点がある.人間のようなアーム型のシステムでは,このようにはうまくいかない.

(Q)直交する2本のプローブ両方で肋間に存在する患部を捉えることができるか?(東京農工大・桝田先生)
(A)現在は,ひとつのプローブで肋間に存在する患部をモニタリングすることを第一段階として研究をすすめている.一般に,直交する2本のプローブの両方で肋間に存在する患部を捉えることは困難であり,その場合,患部の運動モデルなどで上記情報を補完する必要が生じるのではないかと考える.将来課題としたい.

(Comment) Theragnosticsという言葉をひろめてゆきましょう(東京農工大・桝田先生)

(Q)工作機械などで周期的な外乱補償の研究があるが,呼吸運動も周期的なので,これを応用できないか?(立命館大・川村先生)
(A)そのような研究も行なっている.ただし,呼吸運動の場合,工作機械の外乱よりも周期のゆらぎが大きいため,たとえば周期性の高い高速運動部のみを予測制御するなどの工夫を行なう必要がある.

(Q)医療分野のほかの領域への応用はどうか?(立命館大・川村先生)
(A)本研究の適用範囲は幅広くある.現在のところ,まずは,腎がん・腎結石に対象を絞り,マンパワーを集中した深堀研究を行っているが,本研究の波及効果は幅広くある.なかでも,生体患部の運動補償技術は極めて有望な扇の要となる技術(特許第5311392号)と位置づけており,今後は,これに関する深堀研究を進めると同時に,本技術の適用対象を拡大し,縦横に研究展開してゆければと考えている.

具体的に,肝がん,乳がん,膀胱結石,胆石等にも適用の幅を広げてゆくことが期待されており,また,超音波による内臓脂肪量計測における精度向上にも,本研究・技術の応用は強く期待されている.さらに本研究は,X線,陽子線,重粒子線,ならびに中性子線といった,最先端のがん治療とも共通の技術課題を有している.

その他,心臓癒着評価をはじめとする心臓機能評価,血栓などの循環器疾患の診断・治療、肩痛・腰痛・関節痛などの痛みの評価・治療,超音波ガイド下での穿刺生検やラジオ波による治療における体動補償にも本技術が応用展開できるものと期待している.

(Q)実用化への見込みは?(立命館大・川村先生)
(A)今秋より,実際の医療の現場に持ち込み,臨床における患部追従実験を開始する予定である.ただし,患者に対する安全性の観点から,強力集束超音波照射をともなう実験には手続きおよび時間がかかる.技術的には患部追従・照射が可能な段階にあると考えている.

(Q)押しつけ力はどれくらいか?(立命館大・川村先生)
(A)ペットボトル1本くらいの重さの押しつけ力があれば十分な超音波画像がえられる.1Nであっても接触状態が得られていれば超音波画像は獲得できる.圧力をかけることで,音響インピーダンスが向上し,患部とプローブとの距離も短くすることができるので,患部抽出・追従のための超音波画像の質を向上させることができる.

(Q)超音波の経路としてシリコン膜はあったほうがよいか?
(A)一長一短であり、シリコン膜での反射を考慮すればないほうがよいが,超音波の経路を確保するうえでは、シリコン膜に圧をかけて、感部との接触状態を保つことができ,有用である.

(Q)超音波の焦点の大きさはどの程度か?
(A)単軸1mm長軸10mm程度の楕円形状.