超高度に『医デジ化』された社会の実現

小泉 憲裕
(電気通信大学 大学院情報理工学研究科 准教授)

7. 医デジ化のための機能向上・精緻最適化技術

医デジ化のための機能向上・最適化技術


医療技能の技術化・デジタル化(医デジ化)という,システム構築の方法論に基づいて行う.医デジ化とは,医療診断・治療における技能を機能として抽出,分解・再構築(構造化)し,これを定量的に解析し,さらにデジタル・機能関数としてシステムの機構・制御・画像処理・アルゴリズム上に実装,システム上で医療の質の向上(機能向上・精緻最適化)を図ろうとするものであった。

ここでは,医デジ化のための機能向上・精緻最適化技術について概説する。


ここで,構造化された医療診断・治療タスク機能をデジタル・機能関数として実装するにあたって選択する機構・制御・画像処理・アルゴリズムの実装解は互いに独立ではないことに注意されたい。選択した機構が変われば,これに応じて,最適な制御・画像処理・アルゴリズム等の実装解は変化し,必要に応じて改変・調整が必要となる.すなわち,タスク機能の具現化問題を最適な機構・制御・画像処理・アルゴリズム等の実装解の融合的な組み合わせ・機能向上・精緻最適化問題として総合的に捉え,これを導出するべきである。このためには,思考展開図の利用により,機能の抽出・分解・再構築(構造化)を行なうことが大変有用である。

J(システム全体)=J(機構)+J(制御)+J(画像処理・アルゴリズム)+…

とりわけ機能のパラメータ化は重要である。具体的には機能に要求される精度や可動範囲をパラメータ化する。

(参考文献)

WalkAway機器:一度設定したら操作者がそこを離れてもかまわない機器。
http://www.info.pmda.go.jp/downfiles/ivd/PDF/700016_21800AMX10890000_B_02_04.pdf

医療機器開発と最適化手法の接点

太田らは流体力学計算に格子ボルツマン法(LBM),そして最適化計算にsimulated annealing法を用いた脳動脈瘤用ステントデザイン自動最適化プログラムを開発している。そのなかで,医療機器の最適設計には医師のみならず,患者の意見も反映されるべきであると主張している。

評価関数


最適化のための手法

機械学習
(1)教師あり学習
なんらかの教師信号が与えられる学習アルゴリズム。たとえば追従誤差など。最適行動ルールを規定することができる。
(2)教師なし学習
データの背後に存在する本質的構造を抽出する学習アルゴリズム。最適行動ルールを規定することができない。
(3)強化学習
(4)深層強化学習

(参考文献)
[1] 姜興起, ベイズ統計データ解析, 共立出版, 2010.

ニューラルネットワーク

(定理)フィードフォワード型ニューラルネットの関数近似能力
入力層、中間層、出力層の3層からなるフィードフォワード型ニューラルネットにより、『われわれが通常目にする一般的な関数であれば大抵の関数は』高い精度で近似できる。ただし、近似精度を高めるには、中間層の素子数を増やす必要がある。

(注意)ここで『われわれが通常目にする一般的な関数であれば大抵の関数は』といっているが、厳密にいえば、近似対象とする関数は近似尺度に応じた以下のいずれかの条件を満たす必要がある。

1. 連続性の条件

2. 二重可積分の条件

二重可積分の条件とは、関数を2乗して、定義域にわたって積分することができ、なおかつその積分値が有界である(有限の値をもつ)ことである。

(参考文献)
[1] 熊沢逸夫, 学習とニューラルネットワーク, 森北出版, 1998.

勾配消失問題とReLU(Rectified Linear Unit、「レルー」と発音する)

ディープニューラルネットワークでは、層が深くなるにつれ勾配が消えてしまう勾配消失問題(Vanishing gradient problem、後日解説)が発生した。勾配が消えていく理由は、シグモイド関数の微分係数(=導関数の出力値)の最大値が0.25(範囲は0.0~0.25)であり、そのシグモイド関数を重ねれば重ねるほど勾配の値は小さくなっていくからだ。よって、微分係数の最大値が1.0(範囲は0.0か1.0)である「ReLU」(本稿で解説)が使われるようになったというわけである。

 ReLUのメリットは「勾配消失問題の解消」だけではなく、

計算式がシンプルなので、処理が速い
0以下は常に0となるので、ニューロン群の活性化がスパース(sparse: 疎、スカスカ)になり、発火しないニューロン(=生体ニューロンに近い動作)も表現できることで精度が向上しやすい

(参考文献)

SVM (Support Vector Machine)

ベイズ推定(最尤推定)
カルマン・フィルタ,パーティクル・フィルタ等を用いたモーショントラッキングに応用可能な技術で,医療ロボットを最適化するうえで不可欠な基盤的技術になりつつある。

事前確率,事後確率。

ベイジアン・ネットワーク
変数間の独立性を表現することができる。独立性の高い基底を採用することで,システムを直感的に理解しやすくなる。重回帰分析などにおいても独立性の高い基底を採用することは母集団の変化に対してロバストな式をつくる上で重要である。


sigmoid function
hypebolic tangent function

確率論の文脈における独立と線形代数の文脈における独立

確率論の文脈における独立と線形代数における(線形)独立とは混同しやすい概念なのでその扱いに注意を要する。線形独立の文脈では、2つのベクトルが平行でないときに独立だが、確率論の文脈における独立はそれより厳しい2つのベクトル(事象の発生確率(密度関数))の直交(無相関)関係を要求する。

具体的に試行の集合としての事象Aの発生確率(密度関数)が試行の集合としての事象Bの結果に影響されないとき、2つの試行(およびその結果としての事象)は無相関であるという意味において独立であるという。このとき、事象AおよびBの発生確率(密度関数)は互いに直交している。

勾配流(幾何学流)

関数の勾配ベクトルを用いて、最短線や極小曲面、メタ的に考えれば『なんらかのエネルギーの極値』を求める方法。勾配ベクトルのながれに沿って進むと、関数の値は増加(あるいは減少)してゆく。面積の勾配ベクトルは平均曲率ベクトルHを用いて、∇A=-Hnで与えられることが知られている。

極小曲面ではH=0となって勾配が消失するため、変形のながれはそこでストップするものと期待できる。ある量を小さくしてゆく、単純化してゆく、安定化してゆくことはさまざまな幾何学流における自然な考え方となってきており、医用画像の標準・最適化を考えるうえでも重要な考え方になってきている。

(参考文献)
宮岡礼子,曲がった空間の幾何学,講談社.