医デジ化(Medical and Bio are new DigITals: Me-DigIT)による効果とこれがもたらす社会的インパクト(Me-DigIT Impact)

『世界を変える医療システム・イノベーションはここから生まれる』


医デジ化の手法,効果とこれがもたらす社会的インパクトに関する研究。

A study on Me-DigIT method, effect, and its social impact.

2.0 メディジット・インパクト(Me-DigIT Impact)研究プロジェクトとは

(起)
人類は文字を用いることにより人間の寿命を超えて,また直接対面する人の枠を超えて,つまり時間と空間の枠を超えて知識を伝えることができるようになり,知識は蓄積・膨張され技術は発展するようになった。これにより人類の右肩上がりの発展の歴史が始まった[1]。

これには,ルネッサンス期に生まれた発明(グーテンベルクの印刷術等)がきわめて大きな役割を果たしており,それ以前の歴史においてはギリシア・ローマ文明から中世の暗黒時代のようにさまざまな文明や科学技術が何度も発明されては消失するといったことが繰返されていた。

(承)
活字というアイディア自体は漢字圏においてすでに存在していたものの,字数が膨大なため,活字を作ることの労力が大きすぎて実用には至らなかった[2]。これがヨーロッパに伝えられ,わずか26文字によって構成されるアルファベットと出会い(邂逅:かいこう),化学反応を起こしながら融合することで活版印刷技術の研究・開発が加速・進展し,きわめて実用的なものになったのである。

このように異なる分野,学問,文化が交差する場では既存の概念が既存の枠を超えて組合わさり,化学反応を起こしながら融合することで時に新しく非凡なアイディアが数多く生まれ,創造性が爆発的に開花することがある。これをフランス・ヨハンソンは『メディチ・インパクト(エフェクト)』と名付けた[3]

『メディチ』とはフィレンツェの実質的な支配者として君臨したメディチ家のことである。大富豪のメディチ家が各地からさまざまな芸術,文化,科学の突出したタレントを結集して交流を図ったことにより異なる分野,学問,文化が交差する場が生まれ,これによりルネッサンスが勃興したのである(※1)


(UEC 未来研究戦略)~~~~~~~
電気通信大学の中長期的研究戦略。到来する『高度コミュニケーション社会』への考察は、不可避でありInnovativeな概念の確立と革新的な技術の開発・普及なしには新しい社会システムへの対応は困難である。

このため、現存する『コミュニケーション』の定義、対象や方法を包括的に俯瞰し、人間、自然、人工物、社会が相互に影響を及ぼしあう『コミュニケーション』の本質や特性、そのメカニズムなどについて分野、領域、ならびに境界の融合・統合を通して『総合コミュニケーション科学』概念の確立を目指す。
~~~~~~~(UEC 未来研究戦略)

『メディチ』は医師,医学,医薬という意味であり,メディチ家の先祖は薬種問屋か医師であったのではないかといわれている[4]。われわれは医療分野においてITおよびロボット技術を基盤として『メディチ・インパクト』のような大いなる革新をもたらそうと企図するが,これはまさに奇遇である

グーテンベルクの印刷術以降,知識が完全に失われることはなくなり,知識は常に拡がり,蓄積され,言わば『巨人の肩』に乗って新たな高みを目指すことができるようになったといわれる。ヨーロッパにおける歴史的意義としては,印刷術により聖書が一般人の手元にも行き渡るようになり,その後の宗教改革につながっているとの指摘がある[5]。

(転)
わずか26文字によって構成されるアルファベットの場合と同様に,生物のDNAもアデニン(A),グアニン(G),チミン(T),シトシン(C)というわずか4つ(2ビット)の塩基によって記述され,エピゲノムとよばれる化学修飾(メチル化やアセチル化)が,DNAのどこから何を読みだして,生物にどのような機能を持たせるべきかを規定・制御する。

驚くべきことにわれわれ生物は自らの体の中にまさにノイマン型コンピュータを『内臓』していたのである。そういう意味では,生物をロボットの鏡像として捉えることも可能で,われわれの社会はロボットの鏡像としての生物が自己増殖している社会であると言えなくもない。他方,われわれの世界でしばしば猛威を振るう生物の鏡像としての自己増殖機械(コンピュータ・ウイルス)もノイマンが最初に構想している。

アルファベットが活版印刷技術と結びついたように,この『AGTC』という2ビットの文字(群)によって記述されたDNAがIT技術とリンクしてバチバチと化学反応を起こして融合しながら,医学および生物学に数理,情報,ロボット技術など,さまざまな理工学技術を巻き込んで,今まさに技術革新が起ころうとしている。

これまで長い間,学術分野としては位相的にきわめて遠いところ(対極)にあると位置づけられてきた医学・生物学と数理,情報,ロボット技術など,さまざまな理工学技術とは実はきわめて位相的に近いところにあるものとして今日認識されつつあるのである。その中核(ド真ん中)に位置づけられるのがIT,とりわけIoT・AI・ロボット技術である(ロボット工学者の金出武雄先生によればロボット技術⊇IT技術[6])。

メディチ家がとった上記の方策は医工融合の研究・開発においても同様に有効であろう。医デジ化研究プロジェクトという旗のもとにさまざまなバックグラウンドをもつ突出したタレントを世界各地から結集,バイオとIT(ロボット)技術の交差点に立って化学反応を起こしながらバチバチと化学融合反応することで質の高い革新的な医療システムを効率よく生み出すことが可能になり,言わば『医工融合ルネッサンスの勃興』が図れるのではないかと期待されている(メディジット・インパクト)。

ビル・ゲイツは『もしいま自分が学生ならバイオを学ぶ』といい[7],MITメディアラボの初代所長のニコラス・ネグロポンテは『Bio is new Digitals.』と,バイオとIT技術の融合により生物学が再構築され,言わば『Digital Biology』ともいうべき全く新しいデジタル生物学の世界が今後急速に開かれ,発展することをきわめて明快なフレーズで予測・表現している[8]。

このようにバイオとIT(ロボット)技術の交差点にはきわめて大きな可能性が秘められているのではないかという期待は日々急速に高まり,膨らみ続けているのであり,いままさに確信へと変わろうとしているところである[9][10][11][12]。同時にまた,交差点にみられる混とんとした環境は単にイノベーションが興るのみならず,これを興しうる人材が生まれ,成長するうえで絶好の土壌であることも指摘されるところである。

他方,あらたな雇用を創出しうる『イノベーション人材』の出現は日本のみならず世界的規模で渇望されている[17]にもかかわらず圧倒的に不足している[19]。 医療機器の世界市場は2013年の約40兆円から2018年には約56兆円に達するものと見込まれている。単純計算で(日本人の3人に一人が高齢者、5人に一人が後期高齢者となる[20]2025年ごろには100兆円を突破する巨大市場に成長する見込みで(現在の医薬品の世界市場規模が100兆円程度)、われわれは日々成長するこの魅力的なパイの争奪戦を今後20-30年以上かけて繰り広げることになる[21]のであり、その流れはもはや止められない。

メディジット・インパクトを実現するためには,さまざまなバックグラウンドをもつタレント達がみずからの専門分野で単に突出するのみならず異分野(他の工学分野,医学分野,薬学分野,etc.)に対しても興味と関心の翼やアンテナをひろげ,化学反応を起こしながらこれと融合することがきわめて有効である。

具体的にさまざまな分野の突出したタレント達が仲間をつくって,互いに互いの分野の本質的ニーズやシーズ技術を教え合い,これらによく精通したうえで,深く濃密なコミュニケーションに基づく交流を図り,互いに互いの応援団となって,またある時には互いに刺激し合いながら切磋琢磨することで医工融合研究・開発を一歩一歩前進させてゆくことがきわめて有効である。

このような取組みは,『質の高い/革新的な医療機器を効率よく生み出す』ための大きな原動力になり,その結果『苦痛のない安全・安心・思いやりの医療』,『健康長寿や不老不死』といった人類の果てなき大きな夢の推進力や実現力をもたらすだろう。

ここで,我々が提案する医療技能の技術化・デジタル化(医デジ化,Me-DigIT)とは,医療診断・治療における技能を機能として抽出,分解・再構築(構造化)し,これを定量的に解析し,さらにデジタル・機能関数としてシステムの機構・制御・画像処理・アルゴリズム上に実装,システム上で医療の質の向上(機能向上・最適化)を図ろうとするものである[22]。

医デジ化の効果としては,医療技能をデジタル・機能関数としてシステム側に取込む方法の学問体系化・設計指針化・医療支援システムの機能向上・最適化が促進される。いったんデジタル・機能関数としてシステム側に取込むことができれば,医療専門家はみずからの(あるいは他者の)医療技能を解析・評価するとともにその時間軸・空間軸をカスタマイズして自在にあやつることさえできるのである。

これにより,医療専門家にとっては医療技能の標準化による負担軽減が可能になる。具体的には,みずからの医療診断・治療技能の蓄積・改良・再利用がシステム上のデジタル・機能関数として可能になり,一方で患者にとっては標準化された質の高い思いやりの医療をどこにいても安全・安心に享受することができるようになる

(結)
人類はいつでもどこにいても(時空の枠を超えて)デジタル機能関数化された(熟練した名医の)医療技能・技術という,言わば『超巨人ロボ』の肩に乗り,ときにはこれに乗り込んでさらなる医療の高みを目指すことがきるし,これがもたらす大いなる恩恵を享受することができるようになるのである。このための方法論や医デジ化がもたらすさまざまな効果やその社会的インパクトについて研究しようとするのがわれわれのメディジット・インパクト(Me-DigIT Impact)研究プロジェクトである。

(APPENDIX)
『医デジ化』と関連して,MITのメディアラボの『デジタルバイオロジー』の概念がある。ニコラス・ネグロポンテは,今後生命や生物学,医学分野がコンピュータ,インターネット,メカトロニクス,ロボティクス,ナノテクノロジーといった工学分野と化学反応を起こしながら物心両面から融合することでデジタル化され,全く新しいデジタル世界が再構築されてゆくことを『バイオ・イズ・ニューデジタル』というきわめて明快なフレーズで表現している。なぜ,ロボティクスがバイオ(生物学)に学ぶべきなのかについて議論している文献として[24][25]がある。これからの(医療)ロボット研究者はロボット工学の鏡像としての医学および生物学を必修と心得るべきであろう。"Medical and Bio are new DigITals (Me-DigIT) !"である。

参考文献:
[1] http://reasonable.sakura.ne.jp/history/bl/threeInventions.html
[2] http://blogs.itmedia.co.jp/akihito/2015/03/the_patient_will_see_you_now.html
[3] https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B4%BB%E7%89%88%E5%8D%B0%E5%88%B7
[4] http://okanejuku.blog92.fc2.com/blog-entry-2034.html
[5] http://www.gregorius.jp/presentation/page_62.html
[6] 産業技術総合研究所・サイバーアシスト研究センター・デジタルヒューマン研究ラボ編, デジタル・サイバー・リアル, 丸善出版, 2002.
[7] ニコラス・ネグロポンテ, ビーイング・デジタル ビットの時代, アスキー, 1995.
[8] 伊藤穰一, 角川インターネット講座 (15) ネットで進化する人類 ビフォア/アフター・インターネット, 角川学芸出版, 2015.
[9] 「病院まるごとデジタル化」、政府が後押し,
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/event/15/111500088/112500008/?ST=health
[10] 医療業界のデジタル化:テクノロジーを活用して医療を変革する,https://www.cisco.com/c/dam/global/ja_jp/solutions/industries/docs/digitization-healthcare.pdf
[11] 内閣官房が語る、「次世代医療基盤法」の狙い,
http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/event/15/052600126/061300006/?ST=health&P=1
[12] 医療機器開発支援ハンドブック:
https://www.med-device.jp/repository/handbook20180126.pdf
[13] http://www.geocities.jp/timeway/kougi-59.html
[15] https://www.accenture.com/t20150527T210334__w__/jp-ja/_acnmedia/Accenture/Conversion-Assets/DotCom/Documents/Local/es-es/PDF_3/Accenture-Technology-Vision-2014-JP.pdf
[16] http://techon.nikkeibp.co.jp/ndh/
[17] 技能情報学研究ステーション: http://www.skill.uec.ac.jp/wiki/
[18] http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/feature/15/327441/031100048/?ST=ndh&P=1
[19] 『過渡期の技術』に価値が生まれる: http://diamond.jp/articles/-/87970?page=4
[20] 津嶋辰郎, 津田真吾, 山田竜也, イノベーションが人材を創る, 人材教育, 2012.
[21] IT ベンチャー等によるイノベーション促進のための人材育成・確保モデル事業(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/27FY/ITjinzai_fullreport.pdf
[22] 2025年問題:http://dspc2007.com/2025.html
[23] http://www.mizuho-ir.co.jp/publication/report/2016/pdf/mhir11_ict02.pdf
[24] 小泉憲裕, 月原弘之, 光石 衛, "医デジ化にもとづく超音波医療診断・治療統合システムの構築法," 設計工学会誌, Vol.49, No.6, pp.6-13, 2014.
[25] 内山 勝, 中村仁彦, ロボットモーション, 岩波書店, 2004.
[26] 有本 卓, 関本昌紘, ”巧みさ”とロボットの力学, 2008.
[27] 井上広一,黒江裕子,杉谷雅彦,石井敬基, デジタル化がもたらす環境変化と業務の拡張, 日本大学医学部総合医学研究所紀要, Vol.3 (2015) pp.77 - 79.
[28] 2030年の未来像―ICTが創る未来のまち・ひと・しごと, http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/pdf/n6100000.pdf

[] 未来のデジタルホスピタル:今後、デジタル技術は、病院にどのような変化をもたらすのだろうか, https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/life-sciences-health-care/hc/jp-hc-hospital-of-the-future.pdf
[] “機械屋”化する“薬屋”…製薬会社が医療機器メーカーから学ぶべきこと|モダリティ 新時代(2), https://answers.ten-navi.com/pharmanews/15680/
これまで医療機器メーカと製薬メーカは別の相にあると捉えられてきたが、従来あった境界線が徐々になくなりつつある。これを踏まえてわれわれが今から伏線や布石を打っておくことは後々の展開において将来かならずや有利に働くであろう。why慣性の法則。

(※1)良質の環境が良質の知能を生み出す。異なる分野,学問,文化が邂逅(かいこう):するところ(交差点)はイノベーションにとって絶好の土壌となりうる。邂逅(かいこう): 思いがけなく会うこと,めぐりあい。

2.1 医療技能の技術化・デジタル化(医デジ化)の概念

Concept of Medical DigITalization (Me-DigIT)

本研究で提案する非侵襲超音波診断・治療統合システムとは,呼吸や拍動等により能動的に変形をともなって運動する生体患部をロバストかつ高精度に抽出・追従・モニタリングしながら,超音波を集束させてピンポイントに患部へ照射することにより,がん組織や結石の治療を患者の皮膚表面を切開することなく非侵襲かつ低負担で行なおうとするものである.

本研究では,システムを構築するにあたって療技能の技術化・デジタル化(医デジ化)という,システム構築の方法論に基づいて行う.デジとは,医療診断・治療における技能を機能として抽出,分解・再構築(構造化)し,これを定量的に解析し,さらにデジタル・機能関数としてシステムの機構制御画像処理・アルゴリズム上に実装,システム上で医療の質の向上(機能向上・最適化)を図ろうとするものである(Fig.\ref{fig_ConceptOfTechnologizingAndDigitalizing}).

医デジ化の効果としては,医療技能をデジタル・機能関数としてシステム側に取込む方法の学問体系化・設計指針化・医療支援システムの機能向上・最適化が促進される.これにより,医療専門家にとっては医療技能の標準化による負担軽減が可能になる.具体的には,みずからの医療診断・治療技能の蓄積・改良・再利用がシステム上のデジタル・機能関数として可能になり,一方で患者にとっては標準化された質の高い医療をどこにいても享受することができるようになる.

(注)ここで,構造化された医療診断・治療タスク機能をデジタル・機能関数として実装するにあたって選択する機構・制御・画像処理・アルゴリズムの実装解は互いに独立ではないことに注意されたい.選択した機構が変われば,これに応じて,最適な制御・画像処理・アルゴリズム等の実装解は変化し,必要に応じて改変・調整が必要となる.すなわち,タスク機能の具現化問題を最適な機構・制御・画像処理・アルゴリズム等の実装解の融合的な組み合わせ・機能向上・最適化問題として総合的に捉え,これを導出するべきである.このためには,思考展開図の利用により,機能の抽出・分解・再構築(構造化)を行なうことが大変有用である.

(注)医療診断・治療技能をシステム側にデジタル・機能関数として取込み,デジタル・機能関数の機能向上/最適化問題に帰着する(落とし込む)ための方法論を学問体系化しようとする取組みそのものも,われわれが世界にさきがけていち早く取組んできた独自の発想にもとづくものである(医療支援システム構築フレームの提案).

また,これを実現するための基盤となる機構・制御・画像処理・アルゴリズムに関するコア技術群,ならびにこれらの融合・最適化のためのコア技術群もわれわれの研究グループが世界にさきがけて独自に開発・蓄積してきたものであり,有望な将来医療基盤技術(医デジ化コア基盤技術群,これこそわれわれ研究者/技術者にとって,みずからの腕のみせどころであろう)になるものと期待されている.

たとえば,臓器運動に応じて超音波診断系と治療用超音波照射系とを融合・動作させることで実現される患部追従(Focal Lesion Servo: FLS)技術は我々の研究グループがパイオニアかつ先導的存在として独自に開発してきたOnly Oneの技術である\cite{IJMRCAS14:MAzizian}。これはさまざまな独自のノウハウ/技術の結集であり,一朝一夕で簡単に実現できるものではない。
Concept of Me-DigIT

機能を実装するにあたっては,専門医の医療技能をただ単に模倣するだけでは不十分である。必要ならば専門医の医療技能に啓発された全く新しいアプローチから機能を追加・実装することによって,医療の質の向上を図る.例えば,位置・姿勢の正確さが要求される機能には,人間のようなアーム型の機構ではなく,直動ガイドおよび曲率ガイドによる剛性の高い機構を用いるべきである。

(コラム)
私の所属する研究室は代々続く設計生産・加工の研究室で,工作機械(機械をつくる機械,マザーマシンとも呼ばれる)のDNAが医療支援システムの設計にもおのずから反映されている。なかでも,『力を受けるガイド機構(力をうけても変形しづらい機構)設計技術』はわれわれの有する特徴的なコア技術のひとつであり,他の医療支援システムの研究室とは一線を画するところである。これにより,『人間の能力を超える高速・高精度(安全・安心)』な診断・治療が可能になる。人間のようなアーム型のマニピュレータ機構では力を受けるとたわみやすく一般に精度を出しづらい。

また,実際に医療専門家に工作機械による加工の様子をみせると,その動作の高速・高精度さに驚かれ,魅了され,すぐにでも医療支援システムとして利用できるのではないかという話になりがちである。しかしながら実際には,工作機械による加工技術の医療応用は一筋縄にはゆかない。工作機械による加工の場合には,一般に対象が静的であり,なおかつ剛であるのに対し,人体を対象とする医療支援システムによる診断・治療の場合には呼吸や拍動などに起因する変形をともなう臓器の運動を考慮する必要があるためである。

(コラム)わが国において医療に係わるソフトウェア開発,システム開発ができる技術系人材が圧倒的に不足していることが医療機器開発メーカにより指摘されている\cite{平成27年度次世代イノベーション創出プロジェクト2020 イノベーションマップ}。このような(医デジ化)人材を社会に供給してゆくこともわれわれの研究チームの重要なミッションのひとつと考える。

\cite{平成27年度次世代イノベーション創出プロジェクト2020 イノベーションマップ}
[] 平成27年度次世代イノベーション創出プロジェクト2020 イノベーションマップ, pp.39, 東京都産業労働局.

Our core technology to implement highly rigid mechanisms in order to realize precise motions / servo controls based on DNA of mother machines.

(コラム)
『最適』のほかに『好適』,『至適』という言葉もある.超音波診断においては一般に診断画像の質を向上させるためにフォーカスpositionの設定を調整する。このようなときには『好適』というより,『至適』または『最適』なフォーカスpositionといわれることが多い(共同研究者の沼田和司先生).

これを踏まえて,本研究では,下記の5つのコア技術を基盤として,これを発展させることで,人が人にやさしく接するように人体に対して安全・安心に動作する非侵襲超音波診断・治療統合システムを実現する(Fig.\ref{fig_roadmap}).

\begin{itemize}
\item[]\hspace{-0mm}(a)\hspace{0mm}人体に対する安全・安心な接触/非接触動作制御技術
\item[]\hspace{-0mm}(b)\hspace{0mm}機能に応じた高精度機構設計技術
\item[]\hspace{-0mm}(c)\hspace{0mm}超音波医療診断・治療技能における機能抽出・構造化技術
\item[]\hspace{-0mm}(d)\hspace{0mm}機能/タスクに応じたシステム動作切替え・制御技術
\item[]\hspace{-0mm}(e)\hspace{0mm}リアルタイム医用超音波画像処理技術
\end{itemize}

(コラム)
『技能』と『技術』の違いについて.両者の違いは『マニュアル(レシピ)化できるかどうか』にある.たとえば,スーパーのパック寿司を作るには,作業員に特段の熟練を要さず,マニュアルと機器があればよいので『技術』に相当する.他方,専門店の寿司は熟練した職人が,客の嗜好やネタの状況に応じて握り方を改良・調整するので,(現在のところ)マニュアル(レシピ)化できず,『技能に相当する』.

ここで,熟練した職人は,『静的』な『マニュアル(レシピ)』をもとに寿司を握っているのではないことに着目されたい.客の嗜好やネタの状況といった周囲の状況の変化に応じて,握り方やレシピを改良・調整するというアルゴリズム(関数)が働いて,その結果として寿司が生成されるのである.

しかも,そのアルゴリズム(関数)は客からのフィードバック情報に基づいて職人が改善する(動的に変化する)アルゴリズム関数であり,職人の経験や勘(インスピレーション)にもとづいて,日々,進化するところにその特徴がある.このように客からのフィードバック情報に基づいて動的に進化させることが可能なアルゴリズムにこそ,マニュアル(レシピ)化できない熟練した職人の強みがあり,職人の腕の見せどころといえるだろう.

2.2 医デジ化の手順


図に医デジ化による医療支援システム構築の手順を示す.図において,④,⑤のステップについては,これまで医師が積極的に介入してこなかった.そこで,医工融合人材養成ユニット\cite{2007KKataoka}により,ロボットのシーズ技術に精通し,医療ニーズの開拓およびロボット技術開発を工学研究者とスムーズに連携しながら行なう医師を養成しようとする試みが進められており,これにより,質の高い医療支援システムの高効率な開発が促進されるものと期待されている.



(コラム)
メディジット・インパクトによる医工融合ルネッサンスの勃興
Bio-Engineering Renaissance by Me-DigIT Impact
『世界を変える医療システム・イノベーションはここから生まれる』


ヨハンソンが提唱する『メディチ・インパクト』という言葉が知られている。大富豪のメディチ家(『メディチ』は医師,医学,医薬という意味であり,先祖は薬種問屋か医師であったのではないかといわれている)が各地からさまざまな芸術のタレントを結集して,交流を図ったことでルネッサンスが勃興したというものである。

異なる学問分野,文化,産業が交差する場では既存の概念が組み合わさり,化学反応を起こしながら融合することで新しく非凡なアイディアが数多く生まれ,時に創造性が爆発的に開花することがある。これをヨハンソンは『メディチ・インパクト(Medicci Impact)』と名付けた。

これは医工融合の研究・開発においても同様に有効な方策であろう。医デジ化研究プロジェクトという旗のもとにさまざまなバックグラウンドをもつタレントを結集,化学反応を起こしながら融合することで質の高い医療システムを効率よく生み出すことが可能になり,医工融合ルネッサンスの勃興が図れるのではないかと期待している(メディジット・インパクト)。

メディジット・インパクトを実現するためには,さまざまなバックグラウンドをもつタレントがみずからの専門分野のみならず異分野(他の工学分野,医学分野,薬学分野,etc.)にも興味と関心の幅をひろげることがきわめて有効である。

具体的にさまざまなタレントと仲間をつくって,互いに互いの分野の本質的ニーズやシーズ技術を教え合い,これらによく精通したうえで,深く濃密なコミュニケーションを図りながら互いに互いの応援団となって,医工融合研究・開発を一歩一歩前進させてゆく。

このような取組みは,『質の高い/革新的な医療機器を効率よく生み出す』ための大きな推進力になり,『健康長寿』といった人類の大きな夢の実現力をもたらすだろう。

参考文献:
http://okanejuku.blog92.fc2.com/blog-entry-2034.html
http://reasonable.sakura.ne.jp/history/bl/threeInventions.html

 2.3 医療技能の技術化・デジタル化の関連研究


一貫した操作性(consistent manipulability),ワークスペース(workspace),(マニピュレータ自身の)大きさ(Size)といった複数の基準に基づいたマニピュレータ構造の最適化法がZhangらによって提案されている\cite{ASMEJ2011:XZhang }.

\begin{equation}
F = k1 Ws + k2 UDg +k3 S
\label{F = k1 Ws + k2 UDg +k3 S}
\end{equation}

\begin{equation}
k_1 + k_2 + k_3 = 1
\label{k1 + k2 + k3 = 1}
\end{equation}


本村らはベイジアンネットワーク技術を利用して構築した人間の行動モデルが,医療・健康サービスを含む様々な人間の行動ナビゲーション支援システムの構築にとって有用であることを指摘している\cite{2006Bayesian:YMotomura}

2.4 機能の抽出・分解・再構築(構造化)


効率的な非侵襲超音波診断・治療を実現するためには,まず,システムの要求機能を明らかにし,これに基づいてシステムを構築する必要がある.そこで,本節では,非侵襲超音波診断・治療を機能の観点から構造化(抽出・分解・再構築)する方法を示す(Fig.\ref{structuredFR}).

まず,機能の抽出および分解を行なう.一般に,要求機能は階層構造を有する.すなわち,大要求機能はいくつかの中要求機能に分解でき,さらに,中要求機能はいくつかの小要求機能に分解される\cite{ASAKURA1992:NPS}. 非侵襲超音波診断・治療統合システムの要求機能は以下の2つの要求機能に分解できる.

\begin{itemize}
\item[]\hspace{-0mm}(FR-1)\hspace{3mm}超音波診断機能
\item[]\hspace{-0mm}(FR-2)\hspace{3mm}超音波治療機能
\end{itemize}

このうち,要求機能(FR-1)は,以下の4つの要求機能に分解される.
\begin{itemize}
\item[]\hspace{-0mm}(FR-1.1)\hspace{3mm}プローブを患部に近づける機能
\item[]\hspace{-0mm}(FR-1.2)\hspace{3mm}患部を抽出する機能
\item[]\hspace{-0mm}(FR-1.3)\hspace{3mm}HIFUの焦点位置を患部に追従させる機能
\item[]\hspace{-0mm}(FR-1.4)\hspace{3mm}患部をモニタリングする機能
\end{itemize}

要求機能(FR-2) は以下の3つに分解される.
\begin{itemize}
\item[]\hspace{-0mm}(FR-2.1)\hspace{3mm}HIFUの焦点位置を患部上の指定した位置に合わせる機能
\item[]\hspace{-0mm}(FR-2.2)\hspace{3mm}HIFU照射強度可変機能
\item[]\hspace{-0mm}(FR-2.3)\hspace{3mm}HIFU照射停止機能
\end{itemize}

(FR-1.3)については,以下の2つの機能に分解して実装することで機能の性能が向上する\cite{IROS2009:NKoizumi}.
\begin{itemize}
\item[]\hspace{-0mm}(FR-1.3.1)\hspace{3mm}周期的な患部の運動を補償する機能
\item[]\hspace{-0mm}(FR-1.3.2)\hspace{3mm}非周期的な患部の運動を補償する機能
\end{itemize}

つぎに,システムの実装を考慮して抽出・分解された機能の再構築を行なうことで,以下の3つの機能にまとめられる.
\begin{itemize}
\item[]\hspace{-0mm}(R-FR-1)\hspace{3mm}HIFUプローブを動作させる機能
\item[]\hspace{-0mm}(R-FR-2)\hspace{3mm}HIFU焦点を動作させる機能
\item[]\hspace{-0mm}(R-FR-3)\hspace{3mm}HIFU照射制御機能
\end{itemize}

(コラム)
医デジ化は制御理論における内部モデル(原理)の考え方を拡張したものと捉えることもできよう.医師の診断/治療タスクモデルおよび患者の患部モデルをシステム内部に取込み,適切な(基底)機能関数として実装することで,実際の医師の実際の患者に対する診断・治療タスクをシステムが高速・高精度に実現することが可能になる.換言すれば,医師の入力する診断・治療タスク軌道に対して,システムが定常偏差なく精確に追従することが可能になる.

(コラム)
意匠美∝構造化された機能美
(ex.)清水寺,エッフェル塔
美しさは機能の度合いをあらわし,安全・安心・思いやりにつながる.
人間の運動もロボットの運動もなめらかな方が美しい.見た目も重要か.

2.5 医デジ化による医療支援システム開発のスタンス

医工融合の教育活動は,単に教育面にとどまらず,研究面にも積極的にフィードバックされ,大きな推進力をもたらし,その成果が講義および実習を通して教育活動にフィードバックされるという好循環をも生みだす

その具体例として,たとえば,医療ナノテクノロジー人材養成ユニットという医工融合教育プロジェクトの履修生であり,同ユニットで工学的エッセンスを修得した心臓外科専門医と現在まで,10年間にわたり,週に1度のペースで(わずか10分であっても)ミーティングを開き,精力的に共同研究・開発ミーティングを開催していることがあげられる


そのなかでは,単に,医療機器の共同研究・開発を行なうのみならず,『心臓外科専門医としての医療ニーズ』,『医療現場における一般的な医療ニーズ』,『超音波医療ロボット研究者としての専門的/一般的な工学シーズ』を中心にお互いの医学あるいは工学知識を相互に教えあっている


また,『質の高い医療機器を構築するためには,何が必要か?』,『医療機器開発チームはどのように構築されるべきか?』,『医学研究者と工学研究者の医療機器開発にあたっての意識・方向性の差異』,『医学系あるいは工学系の人間からみた,これがあれば医工学研究がすすむのにと思うこと』など,医療機器開発の方法論,課題,並びに解決アプローチ等について多岐のテーマにわたり,継続的に議論してきており,この蓄積が『超音波医療診断・治療システムの構築法に関する研究』の進展において大きな推進力のひとつとなっている


具体的に,たとえば,医療機器は,『誰でも使いやすいように簡便で,より安全で,より速く,より確実』であるべきだという医師の立場からの指摘から,まず,『人体に対して安全・安心に接触あるいは非接触動作しながら,人間の能力を超える高速・高精度な医療診断・治療を実現するシステム』という医療システム開発コンセプトを確立した。


つぎに,医療機器を構築するための方法論として,『医療技能を機能として抽出・構造化し,医療システムの機構・制御・画像処理アルゴリズム上に実装・機能の高度化を図ることで医療の質の向上を実現する』という『療技能の技術化・デジタル』のコンセプトを確立した。


その際,『ロボットの機能が人間にとって代わるという開発コンセプトでは現場の医師に受け入れられない』,『医師が自身の技能を向上させる機会を奪うような医療ロボットであってはいけない』という指摘を受け,『医師の技能向上の機会を奪うのではなく,医療技能の技術化・デジタル化を通して医師の技能向上を支援し,新たな診断・治療の可能性を開拓する』という医療支援システム開発のスタンスを確立した。



具体的にたとえば,『腎臓がん』の治療は,患部の呼吸性移動のため,これまで,超音波治療の対象外だったが,『呼吸を中心とする患部の運動を補償する機能』を新規に実装することにより,専門医が超音波治療の対象として考えるようになり,これにより,超音波医療診断・治療システムの研究が加速・進展した.









医デジ化によるシステム開発のスタンス

医工融合研究を推進するうえで医師側に期待される心構えとしては,『ただちに実用化されないから医療支援システムの研究開発に着手しない』とか,『現在の研究開発水準に限界を感じて現状に留まろう』というのではなく,『3~5年後あるいはさらに将来の技術水準をも見据えて,今,研究開発をスタートしよう』とする,『積極的かつ粘り強く取組もうとする強い信念・姿勢』であろう.

(コラム)工学に興味のある医師をどうやって見つけるか?
工学に興味のある医師であるが,心臓外科専門医は普段から運動する臓器を扱っているせいか,ロボットなど,アクチュエータに興味を示す先生が多く,医工融合共同研究に積極的な先生が多いように感じる.私が共同研究している医師(下図)も車やバイクのエンジンに興味があり,周囲にもロボットに興味を抱く先生が少なくないとのこと.また,医工融合共同研究における医師側の心構えとしては,『今すぐに使えないから研究しないというのではなく,3~5年後を見据えて,今スタートするという姿勢が肝要』とのこと.ありがたい.


心臓外科専門医との医工融合共同研究風景

2.6 医デジ化の応用と適用限界

医デジ化の応用範囲は,医療にとどまらない。
適用限界もある。

(コラム)
ベイズ統計は医療機器の審査などにおいても採用されている.ベイズ理論は現実の問題に柔軟に対応することができるのが特徴である.実学であるベイズ理論が医療応用されるのは自然なながれであろう.

(コラム)
これまで製造業分野においてロボットに求められてきた役割は,『定型的な作業を人間では不可能な精度および速度でこなすこと』であった.他方,医療分野において今後期待されるロボットは『これまでは人間にしかできないと思われてきた複雑で非定型な文脈や状況に対して適切な判断および動作を高速・高精度かつ安全に実行するとともに,医師の技能向上の仕組みを確保することで医療の質の向上を図り,新たな診断・治療の可能性を開拓する』ことであろう.

(コラム)
ニューラルネットにみる医デジ化
現在のニューラルネットという技術は必ずしも生体の神経系を忠実に模擬するものではない\cite{1998GakushuToNeuralNetwork:IKumazawa}.生体の仕組みに啓発されながらも実装目的に即して進化してきた技術である.この進化こそ研究者の腕のみせどころであり,医デジ化のコンセプトとも共通するものがあろう.


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