2. 医デジ化に基づく医療支援システムの構築法

要約

医学および生物学に数理,情報,制御,人工知能,ロボット技術など,さまざまな理工学技術の交差点にはきわめて大きな可能性が秘められているのではないかという期待は日々急速に高まり,膨らみ続けている.ビル・ゲイツは『もしいま自分が学生ならバイオを学ぶ』といい,ニコラス・ネグロポンテは『Bio is new Digitals.』と,バイオとIT技術の融合により生物学が再構築されることをきわめて明快なフレーズで予測・表現している.本報では,医療・バイオのデジタル化(医デジ化)をテーマに,特に超音波医学分野におけるデジタル化およびこのためのコア基盤技術について現状を概観するとともに将来への期待も含めて議論する.

Abstract

The expectation that intersections of various science and engineering technologies such as mathematics, information, control, artificial intelligence, robot technology, etc. in medicine and biology have enormous possibilities are rapidly expanding day by day. Bill Gates says, "If I were a student I would learn biology," Nicolas Negroponte said "Bio is new digitals." It is a very clear phrase to predict that biology will be reconstructed by fusion of bio and IT technology. In this paper, we review the medical digitization (Me-DigIT) in the field of medical ultrasound and core technologies for Me-DigIT.

Key words

療技能の技術化・デジタル化 医デジ化
Technologizing and digitalizing medical professional skills
あるいは簡単に
Medical DigITization (Me-DigIT,ITはIT技術(なかでもロボット技術)を基盤とすることを明示するため大文字化)

医療とバイオは新しいデジタルだ!
Medical and Bio are new DigITals (Me-DigIT) !

メディジット・インパクトによる医工融合ルネッサンスの勃興(ぼっこう)
Bio-Engineering Renaissance by Me-DigIT Impact(Me-DigIT Impact
『世界を変える医療システム・イノベーションはここから生まれる』

非侵襲超音波医療診断・治療統合システム
Non-invasive ultrasound theragnostic system (NIUTS)

患部(病巣)追従
Focal lesion servo (FLS)

強力集束超音波
High intensity focused ultrasound (HIFU)

超音波遠隔医療診断システム
Remote ultrasound diagnostic system (RUDS)

診断・治療統合
Thera(g)nostics = therapeutics + diagnostics

追従のための画像の質
Image Quality for Servo (IQS)

医療ロボット
Medical Robot(MR)

超音波診断ロボット
Ultrasound diagnostic robot (UDR)

超音波治療ロボット
Ultrasound therapeutic robot (UTR)

体動補償
Physiological motion compensation (PMC)

医デジ化スタジオ
Me-DigIT Studio (MDS)

はじめに

患者に皮膚切開を加えることなく(非観血的に),ピンポイントで患部を診断・治療することができる強力集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound: HIFU) を用いた医療診断・治療技術は,既存の開腹手術や低侵襲手術の代替としてきわめて有望であり,近年,多くの研究が報告されている. このうち,HIFUを利用した代表的なシステムとして,JC Haifu™システム,ExAblate™,ならびにSonablate™システム等があげられる.

JC Haifu™システムについては,さまざまなタイプの腫瘍を対象として計40,000例以上の臨床応用が報告されている.このようなHIFUを利用した既存のシステムに共通する主要な問題点の一つとして呼吸・拍動等による臓器の運動(変位・変形・回転)に対する補償が行なわれていないことがあげられる.そのため,たとえば,呼吸を制御した状態で治療を行なう必要があり,患者や医師への負担が大きくなる.

上記を踏まえて本研究プロジェクトでは、呼吸・拍動等により能動的に運動する生体患部をロバストかつ高精度に抽出・追従・モニタリングしながら、超音波を集束させてピンポイントに患部へ照射することにより、がん組織や結石の治療を患者に皮膚切開を加えることなく非侵襲かつ低負担で行なう非侵襲超音波診断・治療統合システムの構築法を研究してきた。

なお、同研究の基盤となる先行研究として、本研究グループによる遠隔超音波診断システムの構築法に関する研究があり、2001年に透析肩を対象とする世界初の遠隔超音波臨床診断実験を行ない、通常の診断と同等の診断が可能であることを示した。

体動補償システムが患部に精度よく追従できていれば、患部は超音波画像上であたかも静止しているかのように見える。これは、マラソンの中継車がランナーに追尾(並走)していると、常にフレーム内にランナーを捉えることができ、その一挙手一投足を精細に観察できるのと同様の原理である。静止した世界では、臓器内の患部の動態観察や医療手技がきわめて容易かつ精確なものとなる。

このとき、追従対象の臓器に対してその運動軌道の接平面を常に同一方向から捉え、これを追従できることが望ましい。なぜならば、これにより常に同一断面での観察が可能になり、断面のテクスチャ情報が保存されるからである。このことは対象臓器の抽出・追従・モニタリングをより簡便で扱いやすいものとする。

他方、運動軌道の接平面から大きくずれてしまうと異なる断面での観察になり、断面のテクスチャ情報もこれにともなって大きく変化してしまうからである。これは対象臓器の抽出・追従・モニタリングをより困難なものにしてしまう。

(コラム)
前記のように体動補償システムが患部に精度よく追従できていれば,患部は超音波画像上であたかも静止しているかのように見える.これは,ドライブ中に前(隣)の車に追尾(並走)していると,前(隣)の車が止まって見えるのと同様の原理である.静止した世界では,医療手技がきわめて容易なものとなる.

スポーツの世界では,鍛錬したアスリートが『ゾーン』に入ると時間の流れがスローに感じられるという。有名なエピソードとして巨人軍の川上哲治は打撃練習中に『ボールが止まって見える』という感覚に襲われたという(実際は当時人気のない球団に所属していた小鶴誠の発言だったらしいが)。

鍛錬すれば,同じ時間内にできることが格段に増えるため,相対的に時間の流れはきわめてゆっくりと感じられるのだという(時間を単位とするとこなせる作業量が増えるし,作業量を単位とすると時間が増えたように感じられるという一種の錯覚であろう)。またこの極限として,ある時間内で無限の作業量がこなせる超人を考えれば,この超人にとって世界はあたかも時が止まったかのように感じられる(錯覚される)ことも容易に想像できよう。

荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』という漫画のなかに,DIOという悪役が数秒間,時を静止させ,静的な世界の中で時間的・空間的に対戦相手を捕捉した状態で攻撃するという話があった身動きのとれない静的な状態で対戦相手を攻撃することができるので,いともたやすく対戦相手に攻撃を命中させ,致命傷を与えてゆく(結局は同様の能力に目覚め,DIOよりもさらに長く時間を止められる主人公によって倒されてしまうのだが)

運動・変形するターゲットを捕捉する方法には2つのアプローチ法がある。ひとつは,上記のように,システム側が超人的な高速さでタスクを遂行することで運動するターゲットを容易に捕捉しようとするもの(DIOあるいはカメレオン型)である。『ハイパーヒューマン技術』の提唱者である大阪大学の金子 真先生らの研究グループはこのようなアプローチからターゲットの捕捉システムを研究・開発している。

つぎに,2つめのアプローチ法として,ターゲットの運動・変形を同定し、同様の運動をシステム側にさせる方法(追尾・並走型)があり,われわれはこのアプローチ法を採用する。具体的にわれわれの体動補償技術を用いれば,ターゲットを容易に捕捉,これまで対象として扱われてこなかったような変形をともなって運動する(腎臓・肝臓・すい臓・心臓,肺,etc.)臓器に存在する腫瘍や結石を1mmというきわめて高精度で追従,これを補償しながらあたかも静止した世界で作業を行なう感覚で診断・治療手技を加えることが可能になる。

これにより診断・治療にもとめられる手技のハードルが大きく引き下げられ,さまざまな診断・治療機器の普及がわれわれの体動補償技術により大きく促進されるものと強く期待されている。

(コラム)
マラソン大会などの中継車も同様な効果を利用している。中継車がマラソンランナーと並走することによって、われわれはマラソンランナーのランニング・フォームをつぶさに観察することが可能になり、ぶれのない写真も容易に撮影可能になる。地上に固定したカメラではこのようにうまくはゆかない。リレー競技において、バトンを渡す際に、走者間で速度をなるべく一致させようとするのもこれと同様の効果により、バトン・ミスが少なくなることを経験上知っているからであろう。

スポーツジムのランニングマシンなどにも同様の効果がある。ランナーは走りながら、自分の走るスピードをランニングマシンのベルトコンベアのスピードと一致させる。これにより、ランニングと同時にマシンのボタンを簡単に操作して消費したカロリーなどを容易に確認することができる。

図に関連する他の患部追従手法と提案手法の比較表を示す.具体的に,超音波を利用した患部追従手法はX線CTやMRIによる手法と比較して以下の3つの利点を有する
 (1)超音波の高リアルタイム性による患部運動補償精度の向上
 (2)患部を剛体ではなく,粘弾性体として組織変形を含めたモニタリングが可能
 また,超音波を利用した,他の手法と比較しても我々の手法は以下の利点を有する
 (3)患部とHIFUの焦点は常時一致し、HIFU照射の効率が高く、安全性も高い



他の患部追従手法と提案手法の比較表


(コラム)
超音波治療のためのモニタリング手段として同じく超音波を利用することには利点がある。ひとつには、診断用超音波も治療用超音波も同じ超音波であるため、媒質中の音速が等しい点である。このため、同定された超音波画像上の患部位置と実際の物理的な患部位置とのずれが存在したとしても、診断用超音波を照射する際も治療用超音波を照射する際も等しく同様にずれるため、これを考慮しなくても良い。超音波画像上で同定された患部位置に同じく超音波画像上で音圧センサ\cite{needleHydrophone}等を用いて同定されたHIFU焦点位置を合わせれば良いのである。

本研究プロジェクトでは、超音波医療診断・治療支援システムを構築するにあたって『医デジ化』という、独自のシステム構築論に基づいて行なう。医デジ化とは、医療診断・治療における技能を機能として抽出、分解・再構築(構造化)し、これを定量的に解析し、さらに関数としてシステムの機構・制御・画像処理アルゴリズム上に実装することで医療支援システムの開発に利用しようとするものである。

『医デジ化』はメディカル(Medical)技術とデジタルIT(Digital IT)技術の融合という意味で、英語では『Me-DigIT』という造語で表現している。医デジ化により、医療の質を向上する問題をシステムに実装したデジタル機能関数のパフォーマンスを向上、精緻・最適化する問題に帰着することができ、この精緻・最適化問題に人工知能技術を投入することができる。

医デジ化の効果としては、人工知能・ロボット技術を医療に展開して、医療専門家の医療技能・ノウハウを世界観まで含めて、モデル化、これをシステム側に取り込む方法の学問体系化・設計指針化、医療技能の精緻・最適化が促進される。これにより医療専門家にとっては自らの医療技能をデジタル機能関数として蓄積・改良・再利用することが可能になり、自らの医療技能の底上げにつながる。他方、患者にとっては世界中何処にいても安全・安心で質の高い、一定水準以上の医療を享受することが可能になる。

医デジ化の効果として他にも、一部の医療専門家の間で閉じられているスキルやノウハウを一般に開放、医療専門家と医療従事者、患者、健常者、ロボットの間で世界観の共有が可能になることが挙げられる。これにより例えば医学と獣医学といった分野の垣根を超えたスキルやノウハウの共有も可能になる。

具体的に,高齢化社会,健康志向社会,情報化社会を背景にして,医療サービス(生活)の質の向上が強く求められている.しかしながら,患者数が増大する一方で,個々の診断・治療技能に精通した医療専門家の数は非常に限られている.そこで,本研究では,医療診断・治療サービスを高度な超音波技術・ITおよびロボット(IRT)技術の最大の出口として捉え,『医デジ化に基づく超音波医療診断・治療システムの構築法に関する研究』を推進している.

本研究の具体的な対象として,下記の7点がある: (i) がん(腎がん,乳がん,肝がん,胆のうがん,すい臓がん,骨腫瘍,  etc.)の診断・治療(基礎~応用研究段階,日立アロカメディカル(株)との共同研究), (ii) 結石(腎結石・膀胱結石・肝結石・胆石・すい石, etc.)の診断・治療(応用~臨床研究段階,東大泌尿器科との共同研究), (iii) 痛み(透析肩痛,腰痛,関節痛,etc..)の診断・治療(基礎研究段階,産総研,高知大学医学部,愛知医大との共同研究), (iv) 内臓脂肪(メタボリックシンドローム)評価(臨床研究段階,日立アロカメディカル(株),東大代謝内科,消化器内科との共同研究) (v) 循環器疾患・組織癒着(血栓,心臓癒着,腹部癒着)評価・治療(応用~臨床研究段階,ニプロ(株)との共同研究), (vi) 生体組織の粘弾性測定, (vii) 超音波ガイド下での穿刺生検やラジオ波による治療.

本研究の背景は2点ある.1点めは,強力集束超音波(High Intensity Focused Ultrasound:HIFU)による非侵襲超音波治療技術の顕著な発達である.これは,球面型の超音波振動子を用いて超音波を集束させることにより,周りの体組織に損傷を与えることなく,体内の狭い領域にエネルギーを集中させるというものであり,正常な組織を損傷させることなくピンポイントに患部のみを治療することができる.

2点めは,人工知能、IoT、ならびにロボット技術を利用して人間の熟練した技能をデジタルに再構築する、言わば“技能の技術化・デジタル化”がテクノロジーの発達とともに可能になりつつあることである。すでに製造業分野では人間の能力のみでは不可能な高速・高精度の作業が人工知能、IoT、ならびにロボット技術の利用により実現されている。

高度な技能を要求される超音波医療分野においても医療ロボットの開発により,熟練した医療専門家のように人体に対して安全・安心に(接触あるいは非接触)動作するとともに,人間の能力を超える,高速・高精度な診断・治療を実現することが期待されている.

このようなシステムを構築するにあたっては,専門医の超音波医療診断・治療技能をロボットがただ単に模倣するだけでは不十分である.

超音波医療診断・治療対象である患部を,その機械特性,運動特性,並びに音響特性さえも考慮して,モデル化し,システム側に実装したうえで,医療専門家の技能を診断・治療機能として抽出,分解・再構築(構造化)し,関数(医師の診断・治療モデル)としてシステムの機構・制御・画像処理・アルゴリズム上に実装(医デジ化)することが必須である.

その際,必要ならば医療専門家の医療技能に啓発された全く新しいアプローチから機能を追加・実装することによって,医療の質の向上(高速・高精度化)を図る.これまでに,下記の5つのコア要素技術を基盤として,これを改良・発展させてきた(図に,例として非侵襲超音波診断・治療統合システムの研究ロードマップを示す).

(コア技術I) 人体に対する安全・安心接触/非接触動作技術(IEEE/ASME Trans. Mechatronics(メカトロニクス分野のトップジャーナル)への論文掲載\cite{IEEETMECH2008:NKoizumi})

(コア技術II) 機能に応じた高精度機構設計技術(IEEE Trans. Robotics(ロボティクス分野のトップジャーナル)への論文掲載\cite{IEEETRO2009:NKoizumi})

(コア技術III) 超音波医療診断・治療技能における機能抽出・構造化技術(IEEE Trans. Robotics(ロボティクス分野のトップジャーナル)への論文掲載\cite{IEEETRO2009:NKoizumi})

(コア技術IV) 超音波診断・治療タスクに応じたシステム動作切替え技術(IEEE Trans. on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control (超音波制御分野のトップジャーナル)への論文掲載\cite{IEEEUFFC2010:JSeo})

(コア技術V) リアルタイム医用超音波画像処理技術(International Journal of Medical Robotics and Computer Assisted Surgery (医療ロボット分野の国際一流誌)への論文掲載\cite{IJMRCAS2011:JSeo})

具体的に,例えば,位置・姿勢の正確さが要求される超音波プローブや治療用超音波照射機器を動作させる機能には,人間のようなアーム型の機構ではなく,直動ガイドおよび曲率ガイドによる剛性の高い機構を用いてハードウェア・システムを実装するべきであり,このように機能に応じて高精度な機構を設計する技術,人が人にやさしく接するように超音波診断・治療機器を人体にとって安全・安心に動作させる制御技術など,医療技能の技術化・デジタル化を実現するにあたって強力な武器となるべき独自のコア(核)技術を世界にさきがけて開発・蓄積しつつあり,医療機器産業分野における有望な将来技術になるものと期待している.

医療技能の技術化・デジタル化にもとづく非侵襲超音波診断・治療統合システム構築のロードマップ

(コラム)
何事においても,敵を知り,己を知れば百戦危うからずで,ものごと(システム)の固有値,固有ベクトルを把握して,これに基づいて行動計画を立てることが効率的に物事をすすめるうえで有効であろう.

医療ロボットを構築するうえでの固有ベクトルは,さきほど挙げた,①機構,②制御,③画像処理アルゴリズムの3つで,医療ロボットの主成分を分析すれば,上記3つがまずでてくるであろう,,,

さらに,今後上記の3つに食い込んでゆくのが④機械学習かもしれない,,,とくにベイズ理論関係あたりか,,,

 前述のように,本システムの主要な診断・治療対象として,『がん』と『結石』がある.本研究では,まず,『(腎)結石』が追従できることを目標とした.これは,結石は超音波画像上で輝度が高いため位置の同定がしやすいと考えたからである.

具体的に,まず,超音波画像上で結石を自動検出するアルゴリズムを提案し,治療の精度およびモニタリングのために,集束超音波の照射によるノイズの存在下においても,患部である結石の正確な追跡を可能とする画期的な方法を提案した.

さらに,追従性能を極限まで高めるために,ターゲットの運動の周期的な成分をモデル化して,これをフィード・フォワード項として与える制御法を提案した.最後に,モデル結石および動物摘出腎を用いた患部追従・HIFU照射による破砕実験を行ない,2.5mmの追従精度を実現した.



上記のように,『結石』の追従がある程度できるようになってきたので,次の目標として,『(腎)がん』についても対象にしようということになった.しかしながら,がんには,超音波画像上で結石のように輝度が高いという目印がない.そこで,腎臓の形状(輪郭)情報やテクスチャ(模様)情報を利用することにした.

輪郭情報を利用した方法では,まず,CT等により,腫瘍の形状モデルまでも組込んだ,3次元腎臓モデルを構築し,これと,時々刻々と入力されるステレオの超音波画像とをレジストレーションすることで,間接的な患部位置同定法を実現している.

また,レジストレーションの際に,3次元モデルから生成した輪郭(seed points)情報をステレオ超音波画像における輪郭抽出に利用することで,計算時間を大幅に短縮する画期的な手法を提案し,これにより,従来型のレジストレーション手法では,これまで不可能であったリアルタイム(20Hz)での患部追従を実現し,2.5mmの追従精度を実現している.

さらに,同定された輪郭情報と3次元腎臓モデルから,患部の位置のみならず,姿勢情報さえも同定する手法を提案した.図に腎がんを対象とする患部追従・HIFU照射実験(ファントム実験)の様子を示す.


3次元腎臓モデルと,ステレオの超音波画像とのレジストレーション

腎がんを対象とする患部追従・HIFU照射実験(ファントム実験)

テクスチャ情報を利用した方法では,腎臓の超音波画像においてノイズ以外に画像パターンを変化させる要因としては,肋骨による音響シャドウ,臓器の変形,腎臓の画像平面に垂直な方向への運動等があり,これが追従失敗の主要な原因となる.

そこで本研究では,上記画像パターンの変化に対してロバストな画期的な追従手法を提案した.具体的に,提案するロバストテンプレートマッチング法のコンセプトは,画像パターンの変化量を見積もり,変化の大きな領域をテンプレートから除去しようというものである.

処理の流れを図に示す.治療前に腎臓の超音波動画像を取得し,動画の最初のフレーム(テンプレート)と他のフレームの差分画像を計算することで画像パターンの変化量を見積もる.超音波画像上でテンプレートとして選択した領域と,処理後のテンプレートの一例を図に示す.

現在,本手法を利用して,ヒトを対象とする次世代改良機を開発中であり,2.5mmの追従精度を実現している(図).

ロバストテンプレートマッチング法の処理のながれ

ヒトの腎臓にロバストに追従する次世代改良機の開発

現在のところ,まずは,腎がん・腎結石に対象を絞り,マンパワーを集中した深堀研究を行っているが,本研究の波及効果は幅広い.なかでも,生体患部の運動補償技術(特許第5311392号)は極めて有望な扇の要となる技術と位置づけており,今後は,これに関する深堀研究を行なうと同時に,本技術の適用対象を広げ,縦横に研究展開してゆく計画である.

具体的に,腎がんや腎結石(応用~臨床研究段階)のみならず,今後は,乳がん,肝がん,胆のうがん,すい臓がん,骨腫瘍,膀胱結石,肝結石,胆石,すい石等にも適用の幅を広げてゆくことが期待されており,日立アロカと共同でこれに関する特許出願(特願2012-017499)を進めている(基礎~応用研究段階).また,超音波による内臓脂肪量計測における精度向上(臨床研究段階,東大病院,日立アロカとの共同研究)にも,本研究・技術の応用は強く期待されている.さらに,本研究は,X線,陽子線,重粒子線,ならびに中性子線といった,最先端のがん治療とも共通の技術課題を有していることから,日立製作所の重粒子線研究開発チーム等と意見交換を進めている.

その他,透析肩の診断(応用~臨床研究段階,岡山大学整形外科との共同研究),心臓癒着評価をはじめとする心臓機能評価(応用~臨床研究段階,東大心臓外科との共同研究,特願2011-027806),血栓などの循環器疾患の診断・治療、腰痛・関節痛などの痛みの評価・治療(産総研,高知大学医学部,愛知医大との共同研究),超音波ガイド下での穿刺生検やラジオ波による治療における体動補償にも本技術が応用展開できるものと期待している.

(参考文献)
[1] 厚生労働科学研究費補助金 慢性の痛み対策研究事業 慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究班
http://www.aichi-med-u.ac.jp/mpcmhlw/index.html

[2] 桝田晃司, 青木悠祐, 炉簿ティクス医療による未来の超音波診断, 新医療, 2007.

0.1 支援対象の選定・概念(コンセプト)化


まず,企画化を行う.具体的には,支援対象の選定・概念(コンセプト)化を行う.企画を行うにあたっては,その内容に強力な説得力が求められる\cite{NIKKAN1982:YHatamura}\cite{NIKKAN1998:IUandTS}.下記の「心・技・体」についてよく検討するべきである.

心・技・体

心: コンセプト

技: (医療)技能・(医学・工学)技術

体: 研究・支援対象

研究テーマ

1. 非侵襲超音波診断・治療統合システムの構築法に関する研究
2. 遠隔超音波診断システムの構築法に関する研究
3. 超音波心臓癒着評価システムの構築法に関する研究
4. 非侵襲超音波痛み評価・治療統合システムの構築法に関する研究
5. 医療診断・治療技能の技術化・デジタル化に関する研究

Research themes

1. Construction Methodology for Non-Invasive Ultrasound Theragnostic System
2. Construction Methodology for Remote Ultrasound Diagnostic System
3. Construction Methodology for Post Operative Pericardial Adhesion Evaluation System using Cardioechography
4. Construction Methodology for Pain Evaluation and Therapy System
5. Technologizing and Digitalizing Medical Therapeutic and Diagnostic Skills

(コラム)
キーワードとしてインパクトがあり,記憶に残りやすいものを考案することも重要であろう.
(例)△医療技能の技術化・デジタル化→○医デジ化
患部(病巣)追従機能:Focal lesion servoing (FLS) function

0.x 研究体制の構築

1. ロボットのシーズ技術に精通し,医療ニーズの開拓・ロボット技術開発を工学技術者とスムーズに連携しながら行なえる医師の必要性.
2. 医療ニーズを踏まえて,医学シーズを発展させる医学技術者の必要性.
3. 医療ニーズを踏まえて,薬学シーズを発展させる薬学技術者の必要性.
4. 医療ニーズを踏まえて,工学シーズを発展させる工学技術者の必要性.
5. PMDAなどのレギュラトリーサイエンスに精通した医工学専門家の必要性.
機構・制御・画像処理アルゴリズムを抽出・改良,必要ならば,新規開発する.

下図に医デジ化にもとづく医療ロボット構築の手順を示す。限られた時間あるいは経済的コストで効率的にシステムを構築するためには,工学のエッセンスを理解した医師が,①~③,⑦だけでなく,④,⑤のステップについても工学技術者と深いレベルでコミュニケートしてスムーズに連携できることが望ましい。

ロボットのシーズ技術に精通し,ロボット開発と医療ニーズの開拓を行なう医師の必要性


(コラム)
周囲を巻き込んで,時間をかけて自分の土俵と得意技(研究分野とコア技能・技術)をこしらえ,自分の土俵と得意技で勝負する勇気と気概をもつ.

研究分野におけるシーズ(コア技能・技術,たとえば,機構・制御・画像処理アルゴリズム)に精通し,これを踏まえて,応用分野(たとえば,医療)における,ニーズの開拓を行なう.また,ニーズを踏まえて,コア技能・技術を改良・発展,必要ならば新規開発することで,研究分野を開拓してゆく.

(コラム)
日本医療研究開発機構(AMED)のページに医療機器開発ステップを直観的にわかりやすく表現した双六がある。これをみれば、医療機器開発の現場において、①医療現場のニーズ、②薬機法に代表される医療機器承認のための数々の法律・試験、③工学シーズ技術が開発の初期段階から有機的にリンクさせることが質の高い医療機器を効率よく開発するうえできわめて有効であり、上記3つをバランスよく修得した人材が今後の医療機器開発を先導するであろうことが推察される。しかしながら現在、上記の3つを網羅的に修得した人材は少ないのが現状であり、このような人材の養成が急務である。

サクセス双六で見る研究開発のステップ:

0 件のコメント:

コメントを投稿