3. 超音波画像による生体患部追従の問題点と解決策

3.1 目標精度

HIFUの照射対象として、『結石』と『がん』がある.まず、『結石』が追従できることを目標とした。これは、結石は,超音波画像上で輝度が高いため位置の同定がしやすいと考えたからである。

The focal lesions, which should be tracked and followed, are "stones" and "tumours".

 つぎに、『結石』の追従がある程度できるようになってきたので『(腎臓)がん』についても対象としようということになった。がんは超音波画像上で結石のように輝度が高いという目印がないので、まずは追従のために腎臓の形状(輪郭)情報やテクスチャ(模様)情報を利用するアプローチを採用した。

輪郭情報やテクスチャ情報を利用した手法は、『結石』にも『(腎臓)がん』にも応用できる手法である。『結石』および『がん』の両方に追従できることが本研究プロジェクトにおける最終目的であり両方の目標精度を検討している。結石については直径4mm以下の結石は尿から体外に自然排出されるため直径4mmの結石を追従しながら正常な組織を極力損傷することなく強力集束超音波(HIFU)を照射できることが目標になる。

具体的に,HIFU照射対象の結石の直径が4mm(半径は2mm),照射するHIFU焦点の直径が1mm(半径は0.5mm)である,これより,照射するHIFUを照射対象である4mmの結石の領域におさめ,まわりの正常な組織を傷つけないための条件は,結石の形状を球と仮定して(結石の半径)-(HIFU焦点の半径)=2mm-0.5mm=1.5mmになる.

がんについては,一般に,放射線治療において,放射線照射対象である腫瘍の領域のまわりに5mmのマージンをとることが知られている.本研究では,この5mmのマージンの半分である2.5mmを目標精度として設定している.

上記のように,目標精度は結石が1.5mm,がんが2.5mmと値が異なる.そこで,がんにも結石にも応用可能な手法の開発においては,まずは『がん』の目標精度である2.5mmを達成することを目指し,つぎに,『結石』の目標精度である1.5mmを達成することを目指す.

<肝がん治療における目標精度に関して>

 誤差についてですが、臨床医の大多数は、理想的には1mm以下の精度を求めると思います。それは、腫瘍が肝臓の表面に存在し、消化管に接している場合、1mmでも消化管側にいった場合、致命傷になる可能性があるからです。

 しかし、腫瘍が肝臓の表面でない場合は、5mmくらいの誤差があっても、できるだけ局所再発率を下げたいという意向もあって、5mmくらいのマージンをもって安全にむしろ広く焼けたほうが、局所再発にはいいと考えます。従って、消化管に接した、非常に難しいところを焼くには、1mm以内の精度で、しかも、患者さんに、呼吸止め等の安全策をもって焼き、肝臓内部の安全なところは、5mm程度の精度でも、呼吸を自由にして広めに焼いてもかまわないということになると思います。(横浜市大 福田浩之先生)

3.2 超音波診断画像による生体中の患部抽出・追従・モニタリングの問題点と解決アプローチ法

超音波診断装置はMRIやX線装置といった他の画像診断装置と比較してリアルタイム性や扱いやすさの点で優れる。他方、超音波画像はその測定原理上、様々な種類のノイズ要因を有する。

本研究プロジェクトを遂行するにあたって、最大の難所となるであろう超音波診断画像による生体中の患部抽出・追従・モニタリングの問題点とこれを解決するためのアプローチ法について示す。図に示すように、たとえばHIFUによる生体中の気泡発生や追従対象(腎臓結石/がん)と同様のインピーダンスを有する背景等により、患部抽出・追従・モニタリングのための超音波画像の質が劣化する。

患部抽出・追従・モニタリングのための超音波画像の質を劣化させるノイズ要因は下記の6点である。

(NF1) スペックルノイズ(ランダムな小点群)、
(NF2) 臓器変形、
(NF3) 肋骨などによる音響シャドウ、
(NF4) 超音波画像平面に垂直な方向の運動、
(NF5) まぎらわしい組織/気泡(HIFU照射によって発生する)、
(NF6) 機構部の振動。

(NF1) speckle noises (random bright spots)
(NF2) organ transformation.(注)
(NF3) artifacts such as acoustic shadows by rib bones, etc.
(NF4) out-of-plane organ motion.(注)
(NF5) confusing surrounding tissues/bubbles, as generated by HIFU itself.
(NF6) oscillation of mechanical system.

(注)

論文投稿に際してネイティブの英文校正を受けたところ、『臓器の変形』、『臓器の運動』は『organ transformation』、『organ motion』 が適切とのこと。

上図に示すように、上記のさまざまなノイズ要因により患部抽出・追従のための超音波画像の質(image quality:IQ)が劣化する。この劣化が追従誤差増大の原因となり、さらなる画像の変質および振動を引き起こし、これがまた、追従誤差の増大を招く。一方でこの事実は何らかの方法で追従精度を向上することができれば、劇的に追従精度を向上させる可能性があることを示唆する。

本研究プロジェクトでは、我々の研究グループが開発してきた独自のコア技術を基盤として上記の課題を克服する。具体的に、追従誤差を最小化するというアプローチと追従誤差の影響を低減するというアプローチの両面から、上記の問題に取り組むことで効率的な治療および患者にとって安全・安心なシステムの構築を目指す。

(コラム)
ノイズファクターは追従における問題点であるが,ノイズの高い領域を色で示せると面白いかもしれない.たとえば,超音波画像のピクセルごとに,輝度値の分散を色で示すなど,Open CVを学ぶ際の例題としておもしろそう,,,

(コラム)
心臓、肝臓、腎臓といった臓器はいずれも概周期的に運動(変位・変形・回転)を行なう臓器である。これらの臓器に運動を与えるのは横隔膜(筋膜)や心筋といった筋肉であり、ロボットで言うところのアクチュエータにあたる。心臓の運動は臓器内の組織である心筋が生成するため、より能動的であり、肝臓や腎臓の運動は臓器外の組織である横隔膜の運動により、受動的に生成されるものである。

運動の特徴としては、心臓の重心位置の運動自体は比較的小さく、同じ場所で収縮・変形をおこなう。他方、腎臓や肝臓については重心が大きく運動し、収縮・変形は比較的小さい。臓器は体内でほかの臓器と『押しくらまんじゅう』をしていると考えればイメージしやすい。互いに拘束しあったり、作用・反作用を及ぼしあいながら、動力学にもとづいて概周期的な臓器運動(変位・変形・回転)が生成される。因果律としては、呼吸による横隔膜の運動が周囲の臓器の呼吸性運動・変形を生み出す。拍動についても同様である。

呼吸性臓器運動と拍動性臓器運動はともに概周期的な運動を与えるが、両者の大きな違いは、呼吸性臓器運動が患者さんに『呼吸を止めてください』とお願いすることで、ある程度制御できるのに対し(喘息などで呼吸の制御が困難な場合もある)、拍動性臓器運動は『拍動を止めてください』とはお願いできないことである(薬剤などを用いればある程度拍動を遅くすることは可能である)。



超音波画像による生体患部追従の問題点と解決策

3.3 摂動的なノイズ処理問題
HIFU照射にともなう気泡ノイズ,紛らわしい組織,画像エイリアス,スペックルノイズなどの存在により,実際のターゲットの位置同定部$O(s)$が掻き乱されるという意味で,本システムは摂動的なノイズ処理問題を有する.この問題を解決するためには,機構,制御,ならびに画像処理アルゴリズムによる総合的な追従ロバスト化の取組みが必要となる.

具体的に,位置同定部のモデルとして,まず,ステレオの超音波画像入力から追従ターゲットの位置を出力する理想的なモデルが考えられるが,実際のシステムは,上記のノイズ要因のためにモデル化誤差$\Delta_o(s)$を含むことになる.


O(s) = O_m(s)+\Delta_o(s)


たとえば,紛らわしい組織を誤認識した場合,$\Delta(s)$は本来のターゲットの位置$r_t$を紛らわしい組織の位置$r_n$に変えてしまう.いま,紛らわしい組織を一定の割合$w_2$で誤認識するものとすると,両者の間で振動する目標値入力をシステムに与えてしまう.このため,本来,$r_t$を目標値入力とするべきところを,システムは振動しながら,本来のターゲットの位置$r_t$と紛らわしい組織の位置$r_n$に対して,認識の割合($w_1, w_2$)で重みづけられた位置$r$を確率的な目標値入力として追従してしまうことになる.


E[r]=w_1 E[r_t] + w_2 E[r_n]

w_1 + w_2 =1

\Delta r = r_t  - r_n


とくに,\Delta rが大きな場合には,超音波プローブに視点の変化をもたらし,このことが,さらなる追跡対象の位置同定誤差をもたらすという,負のスパイラルに入る.



3.4 振動抑制問題

高速・高精度が要求される分野においては,システムの振動抑制は大きな問題となっている\cite{2007nano-scale-servo:TYamaguchi}.これは,手先の高い精度が要求される,医療機器分野においても同様である.

3.5 音響インピーダンス

z1,z2は,物質の音響インピーダンスです.音響インピーダンスは密度と音速をかけたもので,音の通しやすさをあらわしています.音響インピーダンスが大きく変化するところで反射がおこり,超音波画像上では,輝度が高く(白く)なります.
Rは音(圧)の反射率で,Rがたかいところほど超音波画像上で白くなります.
このことを式であらわしたのが,次式.
I_reflection^stone = \frac{R^stone}{R^bg}I_reflection^bg
R^bg:超音波画像上での背景の反射率
R^stone:結石の反射率
I_reflection^bg:背景の輝度値
I_reflection^stone:結石の輝度値

現在,筋断面や体肢の観察における界面エコーの低減を目的として,生体組織に近い音響インピーダンスを有する各種合成樹脂素材が探索・調査されている\cite{各種合成樹脂素材の音響特性}.


(コラム)

Q and A
(Q) (超音波診断用プローブと超音波治療用トランスデューサを一体化して組込んだ)ロボット先端部を水中に配置しているのはどうしてか?
(A) 患部までの超音波の経路を確保するため.人体の音響インピーダンスは平均的に水の音響インピーダンスに近いことをふまえて,人体とインピーダンス・マッチングの良い水で患部までの超音波の経路を確保している.

3.6 呼吸による腎臓の動作解析


(参考文献)


[] van Breugel J, Wijlemans J, Vaessen H, de Greef M, Moonen C, van den Bosch M, Ries M, Procedural sedation and analgesia for respiratory-gated MR-HIFU in the liver: a feasibility study,

Journal of Therapeutic Ultrasound 2016, 4 :19 (29 July 2016)

Background: Previous studies demonstrated both pre-clinically and clinically the feasibility of magnetic resonance guided high-intensity focused ultrasound (MR-HIFU) ablations in the liver. To overcome the associated problem of respiratory motion of the ablation area, general anesthesia (GA) and mechanical ventilation was used in conjunction with either respiratory-gated energy delivery or energy delivery during induced apnea. However, clinical procedures requiring GA are generally associated with increased mortality, morbidity, and complication rate compared to

procedural sedation and analgesia (PSA). Furthermore, PSA is associated with faster recovery and an increased eligibility for non- and mini-invasive interventions.

Methods: In this study, we investigate both in an animal model and on a small patient group the kinetics of the diaphragm during free-breathing, when a tailored remifentanil/propofol-based PSA protocol inducing partial respiratory depression is used. Subsequently, we demonstrate in an animal study the compatibility of the resulting respiratory pattern of the PSA protocol with a gated HIFU ablation in the liver by direct comparison with gated ablations conducted under GA. Wilcoxon signed-rank tests were performed for statistical analysis of non-perfused and necrosed tissue volumes. Duty cycles (ratio or percentage of the breathing cycle with the diaphragm in its

resting position, such that acoustic energy delivery with MR-HIFU was allowed) were statistically compared for both GA and PSA using student’s t tests.

Results: In both animal and human experiments, the breathing frequency was decreased below 9/min, while maintaining stable vital functions. Furthermore an end-exhalation resting phase was induced by this PSA protocol during which the diaphragm is virtually immobile. Median non-perfused volumes, non-viable volumes based on NADH staining, and duty cycles were larger under PSA than under GA or equal.

Conclusions: We conclude that MR-HIFU ablations of the liver under PSA are feasible and potentially increase the non-invasive nature of this type of intervention.

3.7 カルマンフィルタ

よくあるカルマンフィルタの適用例を以下に示す.

観測されるのは,位置である場合が多い.

c^T=[1 0]
位置センサはついているが,速度センサはついていない状況を仮定しているため,これらの状態変数のうち,位置のみしか測定できない.

位置を測定するとき観測雑音が混入する.



状態空間表現の係数行列{A,b,c}は既知であると仮定する.


力学システムのフィルタリング問題

力学システムを記述する状態空間表現の係数行列・ベクトル{A,b,c}が既知である.すなわち,システムのダイナミクスが既知であるという仮定のもとで,雑音に汚された位置の測定値y(t)から,状態変数x(t)(すなわち,位置と速度)を推定すること.

下記の等速直線運動の状態方程式がよく用いられる.


等速直線運動:

x_1(k+1)=x_1(k)+x_2(k)
x_2(k+1)=x_2(k)



予測ステップ:


(コラム)

ベイズの定理により,ある値がこれこれの範囲に具体的にどのような確率で存在するかを評価することができる.

ベイズの定理にもとづくカルマンフィルタは,これこれの範囲内にターゲットである結石あるいは腫瘍が存在する確率を与えてくれる.本研究においても現実的な問題として,このようなあるい範囲内での患部存在確率情報にもとづいて患部の位置を最尤位置として同定し,これを抽出・追従・モニタリングするアルゴリズムを構築してゆくべきであろう.


患部の存在確立にもとづいて、治療器具を誘導する研究として,Thienphrapaらの研究がある。


[] P.Thienphrapa, A.Popovic, R.H.Taylor, Guidance of a high dexterity robot under 3D ultrasound for minimally invasive retrieval of foreign bodies from a beating heart, 2014 IEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA), pp.4869 - 4874, 2014.


(コラム)

先日参加したJSTU2013という会議で,松本洋一郎先生が『中小企業とベンチャー企業はそのマインドセットにおいて異なる』,『失敗した人はエライと評価するベンチャー精神の重要性』を畑村洋太郎先生が提唱する失敗学を引き合いに出して説いておられ,深い感銘を受けた.

これを踏まえて,自分なりに失敗について考えてみた.


失敗の構造を解き明かし,これを踏まえて,成功を目指して機能構造を改良して再挑戦する姿勢,勇気を振り絞って何度でも,成功するまでトライアンドエラーを繰り返すというプロセス重視の姿勢、そしてこのための不断の努力こそがベンチャー精神の真骨頂であり,イノベーションの本質に迫りうるものであろう。


To try and error is great yamato-spirits so as to succeed.


肝臓の超音波診断


造影超音波技術を用いて腫瘍付近の血流評価を行なうことで、超早期段階での腫瘍発見が可能になりつつある[]。


USとCTの融合画像により、肝がんの超音波診断の簡便かつ高精度化が進展している[]。


(参考文献)

[] K.Numata, et al., " Contrast-enhanced ultrasonography findings using a perflubutane-based contrast agent in patients with early hepatocellular carcinoma," Eur J Radiol. 2014 Jan;83(1):95-102.
[] H.Fukuda, et al., Usefulness of US-CT 3D dual imaging for the planning and monitoring of hepatocellular carcinoma treatment using HIFU, Eur J Radiol. 2011 Jan;80(3):306-310.

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