超高度に『医デジ化』された社会の実現

小泉 憲裕
(電気通信大学 大学院情報理工学研究科 准教授)

2013年9月18日水曜日

第22回日本コンピュータ外科学会(2013年9月14-16日)東京大学本郷キャンパス)において下記2件の成果発表を行ないました.

小泉憲裕, 李 東俊, 月原弘之, 東 隆, 野宮 明, 葭仲 潔, 杉田直彦, 本間之夫, 松本洋一郎, 光石 衛,  "超音波画像追従におけるノイズ要因と画像の質(IQ)の評価法," 日本コンピュータ外科学会誌, Vol.15, No.2, pp.116-117, 東京大学本郷キャンパス, 東京.

(概要)超音波画像追従を行なううえで,超音波画像の質を劣化させるノイズ要因を7つに分類し,これを評価する指標を提案し,その有効性を確認した.本指標により,患部の抽出・追従・モニタリングが適切になされているかどうかをシステム側で把握することができ,これに応じた適応的な制御等が可能になる.

小泉憲裕, 板垣雄太郎, 李 東俊, 月原弘之, 東 隆, 野宮 明, 葭仲 潔, 杉田直彦, 本間之夫, 松本洋一郎, 光石 衛,  "肋骨による音響シャドウと呼吸による体動を有する腎臓ファントム・モデルの構築," 日本コンピュータ外科学会誌, Vol.15, No.2, pp.228-229, 2013.9.14-16, 東京大学本郷キャンパス, 東京.

(概要)超音波画像追従を行なううえで,超音波画像の質を劣化させるノイズ要因のひとつとして,肋骨による音響シャドウがあげられる.このノイズ要因下での追従性能のロバスト性を向上するために,その評価系を適切に構築することが求められている.
そこで,本報では,実際のヒトの腎臓と同様の幾何学的特性・音響特性・運動特性を有する腎臓ファントム・モデルを構築し,超音波画像上でその有効性を評価した.

本学会の発表では,発表に関する利益相反(Conflict of Interest:COI)の有無を表明することがもとめられていました.

利益相反(Conflict of Interest:COI):
利益相反とは,外部との経済的な利益関係により公的研究で必要とされる『公正』かつ『適正』な判断が損なわれる,または損なわれるのではないかと第三者から懸念が表明されかねない事態のことを言います.
利益相反は程度の差こそあれ必ず存在するものです.利益相反があること事態が問題なのではなく,それにより研究の倫理性および科学性が揺るがないことが大切です.そのため,利益相反に関しても個人で管理するのではなく,第三者が研究の倫理性および科学性を審査し担保する体制が必要です.
http://www.kitasato-u.ac.jp/hokken-hp/chiken/REC/kenkyu_sub5.htm


質疑応答は下記のとおり
(Q)誤差のばらつきを利用した評価指標と画像相関を利用した評価指標の関係はどうなっているか?(東大・中島先生)
(A)2つの評価指標は独立の指標となっている.それぞれのノイズ要因に対応した適切な評価指標が求められている.
(Q) 面外の運動による追従はどのように行っているか?(東大・中島先生)
(A)今回の発表では説明しなかったが,実際には2つのプローブを利用して患部の3次元的な運動を検出できるようなプローブ配置となっている.

Q.今から開発しようとするシステムは
体軸方向の運動ではなく,肋間での動きを有するものなのか
A.そうです。
Q.今のファントムで追従実験は行なったのか。
A.はい。
Q.その誤差はいくつなのか。
A.1.78mmです。
Q.それはヒトの場合と比べると少ないのではないか。
その理由とは。
この違いによる問題はないのか。
A.ヒトの周りの筋肉や脂肪、血管などがあります。
ファントムの場合それがないので比較的にきれいに見えて
その分誤差が少ないと思われます。
今回のファントムモデルの場合
新しい手法の評価のため
超音波画像上で同様な肋骨シャドウと腎臓の動きが必要だったため
追従誤差の違いは大きな問題にはなりません。

2013年9月4日水曜日

首都大学東京 南大沢キャンパスで開かれている第31回日本ロボット学会学術講演会において,下記の口頭発表を行ないました.

小泉憲裕, 李 東俊, 月原弘之, 東 隆, 野宮 明, 葭仲 潔, 杉田直彦, 本間之夫, 松本洋一郎, 光石 衛,  "医療技能の技術化・デジタル化に基づく非侵襲超音波診断・治療統合システムの構築法―超音波画像によって同定された生体患部追従誤差に基づくPD制御の問題点と解決策―," 第31回日本ロボット学会学術講演会予稿集, 2013.09.4-6, 首都大学東京 南大沢キャンパス, 東京. 

発表内容の要点は以下のとおり,

要点:
医療支援システムにおけるロボットの制御系を構築するにあたっては,PD制御系が多用されてきた.しかしながら,超音波画像という画像診断モダリティは,その取得原理上多くのノイズ要因(noise factors)を含む.超音波診断画像によって同定される患部追従誤差データが空間的(本システムの場合,およそ0.3-0.4mmの分解能)および時間的に(本システムの場合,サンプリング周波数は40-50Hz)離散的であることを考えれば,追従誤差には本質的に高周波のノイズ成分が含まれてしまうことは容易に想像できよう.

PD制御におけるPおよびDゲインはこの高周波ノイズ成分を増幅した速度指令値をロボットに与えることになる.そのため,PD制御のみでは,追従安定性が損なわれてしまうという問題点がある.本報では,この問題を克服するために,生体患部がなめらかな運動特性(患部運動のメインの周波数はおおよそ1Hz以下)を有し,なおかつロボットの患部追従運動自身が生体患部運動のよいモデルになっていることに着目し,これを利用した2自由度制御系を行なうことで追従安定性および追従精度の向上を図る.

おもな質疑応答は以下の2点でした.

(Q)平滑化のパラメータは心臓などの高周波の患部運動を追従する際に問題にならないか?(早稲田大・石井先生)
(A)現在の平滑化パラメータのカットオフ周波数の設定値は100Hz以上ある.心臓の周期は1Hzであり,上記のカットオフ周波数はこれよりも十分に大きい.一方で,超音波診断画像取得の際の時間おくれが心臓の追従においては問題になる.時間遅れは位相余裕に直接効いてくる。特に,心拍(~1Hz)のように,呼吸(~0.25Hz)と比較して高周波の場合には,この問題が顕在化する.

(Q) 追従精度は患者の初期位置・姿勢に依存するのか?(東大・正宗先生)
(A)依存する.たとえば,テンプレートの取得などは患者の初期位置・初期姿勢に依存する.経験的に適切なテンプレートを取得することで,精度を向上させることがわかっている.また,ノイズに対してロバストなテンプレートを利用することで,初期位置・姿勢による精度の低下をなるべく吸収できるよう工夫している.